やましたさんちの玉手箱
ジャックの記事
連載
01 60歳代で仕事がなくなるあなたへ
02 いつだって 監督の目を意識しろ
03 誰にだって、過去はある
04 家に帰り着く前の酒は なぜこんなに旨いのか
05 五度目の就職 ブルーカラーだ
06 私は清掃員か 清掃夫か はたまた清掃師?
07 言葉で教える、難しさ 例えばさあ
08 重力でゲロをコラエル 清掃こそが運動だ
09-1 いっけねえ ぶっ壊しちゃった その一
09-2 いっけねえ ぶっ壊しちゃった その二
10 大 しながら流す 小 座ってする あなたどっち派?
11 今時はやらないけど ウンコには紙だ
12 転職 清掃のプロに一歩踏み出す
13 ヒワイ ゲロ ウンコ 話の合う おばんたち
14 皆さん、床に落とした物は拾いましょう
15 口笛ふいてバキューム掛け 掃除に音楽は欠かせない
16 タバコとガムの捨て方 ゲロの吐き方 お教えします
17 でも しか じゃ掃除はできないぜよ
18 あとがき
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からだにいい「清掃人」入門体験風

13 ヒワイ ゲロ ウンコ 話の合う おばんたち

第十三章
体育会系から
ガハハのオバサンの環の中へ

 朝6時から10時まで、私の起床時間は4時半になった。
 初めの一週間は、東京・江戸川区出身で“ちょっとあんた”口調の60歳代のMチーフと茨城育ちナマリがストレートに出てくる“私は何でも口に出す”というOサブチーフにビル全ての現場を教えてもらう。
 飲食店の床面、企業PRセンターのバキューム、ライブハウスの舞台、ホール、事務所、楽屋、エレベーター、エスカレーター、非常階段、玄関ホール、ごみの集積所、など。

 何でも一ヶ月前にここに配属されて二週間で辞めたという男性前任者は、初日からネムイ、ダルイを連発してやる気がなかった、という話で、私もかなり警戒されていたらしい。このビルで働くおばさんは常時7~8名、衛星物件といって、このビル事務所が管理する雑居ビル、オフィスビル、店舗など一人で担当している人が7~8名という布陣。

 男性は唯一、放送関連のビルで朝5時から作業をしているこの道一筋のMさん。髪があまりないことを除いて、リンゴ・スターを思わせる特異な風貌で私は〝りんごちゃん〟と名付けた。趣味はパチンコ、〝でた日〟の翌日はメロンやオレンジなどとしゃれた差し入れを持参する気前のいい男。借家住まいで電話は呼び出し、携帯なし、独身とうらやましくなるような生活だ。

 おばさんたちは一様に若く見えるが、なにより力仕事で働いているという活力が見て取れるからだろうと思う。

 私が立ち入って身の上話を聞いたわけではないが、個々人づてに話を聞いたところで、おばさんたちの仕事にもいろいろな事情が垣間見える。まず、自立しなければならない必死組がいる。ご主人の事業不振で協議離婚、元主人はトラックの運転手、本人は朝の清掃パートと午後から夜半まではスーパーのレジや総合案内をこなしているAさん。いつ寝ているのか心配になるくらいだ。時々、“今日はスーパー休みでデートなんだ”と待ち合わせ。そろそろ復縁できそうだと表情が明るい。

 Bさんは数年前ご主人を病気で亡くす。二人でスナックを経営していて、五年有効のパスポートが二冊になったというくらい海外旅行に行っていたそうだが、数年にわたる闘病で家も手放すまでに。近くの祭りには法被を着て繰り出すという元気のよさでカラオケ得意。どうやら夜はスナックでもバイトをしているようで、時々、二度寝したら起きられなくって、と時間ぎりぎりに仕事場に走り込んでくることがある。

 悠然組の一人Cさんは玄関ホールの担当だが、毎年海外へトレッキングに出かけるのが趣味で、体力づくりと資金稼ぎのパートである。おばさんたちは一様にスニーカー姿だが彼女はいつもトレッキングシューズをはいて作業している。

 脱家族派とでもいえるのがDさん。ご主人は元々家で仕事をしているようで、昼までは家に一緒に居たくないということで、7時から11時までの仕事。スラリとした美人系で、昼頃に渋谷のデパートでお買い物現場を数回見かける。

 産休で一年間休職していて現場復帰、衛星物件で18歳になる娘が働いているという、フシギな家族構成のおばさんも居たが、赤ちゃんの父親は二人目の人だとのこと、なるほど。チーフもサブチーフも10年以上勤続というベテラン。二人ともご主人健在で、生活に不自由ないようだが、なにより働くのが好きでやめられないというタイプだ。

 サブチーフの父親は茨城の実家で90歳を迎え元気だという。広い庭を毎日、ナメたように掃除しているということで、“口が悪いこと以外は娘に遺伝しちゃいましたね”と言ったら大笑いコイてた。この人の掃除は何でも徹底していて、Oさんならここまでやるかな、というのが作業の目途になることが多い。仕事を始めて間もない頃、ステンレスの扉を拭いていたら“ちょっとよく見てごらん、きれいになると思ってタテヨコに拭いちゃだめなのよ、ヨコにヨコにとしないとホラ跡が残るでしょ、ステンレスに目があるのよく見てね”といったあんばい。

 彼女の万能道具の一つが小型のモリのような形をした物。15ミリくらいの三角形の矢尻のついた鉄製で、棒の杖のついたもの。実家の父親が使っていた大工道具の一つだそうで、排水溝の溝にたまったごみを掘り出し、布を巻き付ければエレベーターの床の溝を拭うと、手の届かない部分の指代わりとして使っている。

 チーフと共通しているのは、ヒワイ、ゲロ、ウンコの話が嫌いでないこと。私とはよく話が合う。
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