やましたさんちの玉手箱
ジャックの記事
連載
01 60歳代で仕事がなくなるあなたへ
02 いつだって 監督の目を意識しろ
03 誰にだって、過去はある
04 家に帰り着く前の酒は なぜこんなに旨いのか
05 五度目の就職 ブルーカラーだ
06 私は清掃員か 清掃夫か はたまた清掃師?
07 言葉で教える、難しさ 例えばさあ
08 重力でゲロをコラエル 清掃こそが運動だ
09-1 いっけねえ ぶっ壊しちゃった その一
09-2 いっけねえ ぶっ壊しちゃった その二
10 大 しながら流す 小 座ってする あなたどっち派?
11 今時はやらないけど ウンコには紙だ
12 転職 清掃のプロに一歩踏み出す
13 ヒワイ ゲロ ウンコ 話の合う おばんたち
14 皆さん、床に落とした物は拾いましょう
15 口笛ふいてバキューム掛け 掃除に音楽は欠かせない
16 タバコとガムの捨て方 ゲロの吐き方 お教えします
17 でも しか じゃ掃除はできないぜよ
18 あとがき
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からだにいい「清掃人」入門体験風

10 大 しながら流す 小 座ってする あなたどっち派?

第十章
今どきの若いモンは
ウンコの仕方も知らない
 
清掃作業といえば触れざるを得ないのがトイレの清掃だ。

 話は少し飛ぶが、フツー、大便をするとき、〝しながら流す〟か、〝し終わってから流す〟か、どちらだろうか。我がスタッフたちは例外なく〝しながら流す〟派なのだ。いや、この仕事についてからこの派に鞍替えした、元〝ため流し〟派ももちろんいる。

 私たちのトイレ作業は、あくまでも床面の清掃で、便器周りの清掃は大概が、マンションであれオフィスであれ、常勤の女性が行うことになっている。しかしトイレの個室も床面は私たちの守備範囲。トイレの作業はマンションではなくオフィスがほとんどで、金融機関のオフィスでは営業時間内に行う。私たちが作業を始めれば、職員の方たちは遠慮して入ってくることはない。

 ところで、作業に入った途端に、臭いに襲われることがよくある。〝ためおき派〟が用を済ませて出ていった直後なのだが、臭いが消えるまで待っている訳にもいかないので作業開始、“ウンコは流しながら出せよな”と各々思いながら始めるのだ。だから、〝ためおき派〟だった作業員も、この経験をすると〝しながら流す〟派になるという訳だ
 “ウンコは流しながら出せよ”では、ある独身寮の常勤のおばさんからのこぼし話を思い出させる。

 トイレ(便器)の清掃は、社員たちが出勤した後の9時ころから始めることが多い。その日、トイレに行くと社員が一人トイレの前に立って待っていた。
 遅刻だろうに、どうしたのだろうと思っていたら、実にすまなそうに“実はトイレにながしたら、詰まってしまって個室全体に汚水が流れ出してしまったのだ”という。そのままにしておくわけにいかず、さりとて、自分で片づけることも出来ず、出かけてしまっては申し訳ないし、“とにかく、おばさんが来るまで待ってたんです”ということらしい。

 なるほど、個室の床は、私が直接見ていたらどんな形容で説明したか分からないが、〝形状がある程度分かるものが散見できる茶色の水が個室全体に広が……っていたという。とにかく、あるだけのタオルを持ち出し、とにかく水分を吸収することと、ビニール袋に突っ込んできつく袋を縛る、ということにしばらく没頭。
 水分がほぼ無くなった状態で、初めて洗剤を持ち出して清掃開始。“立っていなさい”と言った訳ではないのだが、彼は一応の目途が立つまで、トイレの外で待っていたという。腹が立つやら気の毒やら、おばさん“全く、若い人にウンコの仕方まで教えてやんなくちゃならないなんて”というぼやき話。

 彼も、以後は〝流しながら派〟になったことは多分間違いない、と思う。
〝自分のウンコは臭くないけれど、女房のウンコは臭い〟、女房は本来他人である、という話がよく出る。
 私たちにとってのトイレは他人が用を足すところで汚ないもの、というイメージより、清掃するための一つの場所、という意識しかないので、仕事が終わった後は床もピカピカになるので実に気分がよい。あの臭いさえ残っていなければ……。床のワックスが乾いてもまだ臭いが残っていることがあるからなあ。

 トイレの清掃の話になると欠かせないのが「教育の一環」というもの。
 学校の生徒にトイレの清掃をさせる。社員教育としてトイレを清掃させる。部活動で下級生にやらせていたものを上級生がやるようになった。といったようなことが時にニュースになる。

 生徒達のトイレ清掃の感想には〝臭いがきついので最初はやりたくなかったけれど、やってみたらきれいになって気持ちがよかった“とか、“いったん割り切るとすがすがしくて楽しい〟といったものがみられる。それに比べたら、私たちは金をもらってやっているわけだから、感謝しながらやらなくちゃいけないかもしれない。
 会社での作業については、カー用品のイエローハット社の鍵山秀三郎氏の話が引用されることがある。その名も『掃除道』なる本を出版したほどで、勤務時間前の早朝に清掃を始めたことで、社員たちが後に付いてきたのだが、60代社員の〝清掃をすると無の境地になり、ストレスが消える。体力も付く、おかげで何の運動もしていないのに体のどこも悪くない〟という健康礼賛にはわたしも納得だ。

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 この清掃哲学に賛同した有志が「日本を美しくする会」を結成し、全国の学校や町を掃除する活動をしているという。その効能は「人が嫌がるトイレを掃除することで、謙虚になれる、気づく人になれる、感動の心を育む、感謝の心が芽生える、心を磨く」という五つであるという。

 この五つの効能を紙に書いて煎じて飲ませたいのが〝便器の周囲に飛び散る飛沫を掃除するのが嫌だから、と、亭主に座りションベンをさせる〟という世の奥様方だ。
 最近、男性のおよそ半数が家のトイレで便座に座って用を足しているのだという。松下電工の07年の調査では「座ってしている」男性49パーセント、99年の15パーセントという調査からの8年間で3.3倍に、「たまに座って」も13はパーセントいた。(08年3月4日・東京新聞)

 実は私は13パーセントの一人。我が家のトイレは独身者(時々連れ有り)3世帯が住む小マンションの窓側に有る。夜中に必ず一度はトイレに立つのだが、隣家に電気が点いていることが多いので、音を立てるのが憚られて、パジャマを降ろして座ってやる。確かに汚す心配はないが、終わった後もそのまま考え事をしていたり、妙な夢を見ていて、夢の後先をぼんやり考えていたり、という落ち着いた時間を持つことがある。「立ち」では味わえない一時といえようか。

「立ち」が減ったのはどうしてか。
 『同調査では〈周りを汚さないため〉(45.8%)が最多で〈楽だから〉(24.2%)〈便座の上げ下げが面倒〉(16.3%)〈温水便座の水が出るところにかかってほしくないから〉という回答も。

 実際、どれほど飛び散っているのか。
 松下電工が実施した、立ったままの放尿を想定した〈高さ75㌢から30秒間、400㏄を放水〉実験では、便器外へ飛び散る水滴数は①〈便器の手前の斜面を狙う〉301滴 ②〈奥壁を狙う〉201滴 ③〈水たまり部分を狙う〉85滴の順に多かった。
 同社は〈水たまりを狙えば飛びちりは最小になる。的を光りで示す便器も出ている。とアピールするが、③の場合でも、家族の男性二人がそれぞれ一日三回すれば、計510滴がトイレを汚す計算だ。
 TOTO実験では、3分間のトイレ掃除にかかる筋力負荷は、2㍑のペットボトルを3本持って時速4キロで100メートル歩くのに相当するという。同社の報告書には「結構筋力使うんです。トイレ掃除は男の仕事!?」とのタイトルが。

 人様のトイレ習慣は分からぬものだが、私たちの清掃作業で、ちょっと考えさせられることがあるのでご呈示しておきたい。
 港区にあるオフィスビル。ゲーム関連の会社で圧倒的に若い社員が多い。各階の給湯室と男性トイレ、女性トイレの清掃をする(トイレは各フロアーの隅にあるので休日に無人のオフィスに入ることが出来ず、ウイークデイに行う)ポリッシャー、カッパキ&モップ、ワックス3人一組の作業。
 トイレの前に用具の入ったカートを置き、その前に黄色の【ただ今清掃中しばらくお待ちください】(私たちが駅のトイレでいまいましい思いをさせられるあれ)看板を置き、更に作業中の部屋の前にも置く。“とにかくちょっと待ってね”というアピールなのだ。問題は女子トイレ。男性が女子トイレに入ることは日常ではあり得ないのでおわかりにならないだろうが、このオフィスは個室が3つ、(男子トイレは個室2つに朝顔3つ)で、残りのスペースは鏡、いわゆる生理用品などを収納する棚が備えられていて、色彩様々な小さい袋が並んでいる。

 作業で女子トイレに入るときは、明らかに人の気配がするときは外で待機する。でないときは、“失礼します、清掃に入ります”と声をかけて入室することになっている。入っても個室が静かに閉まっているときは、出直す。

 作業を始める……“失礼します”とも言わずに女性が入ってくる。こうした場合、フツーは、例えば“どのくらいで終わりますか”とか“ちょっと化粧直しさせてください”ということならあり得る。ところが、そのまま何事もないように個室に入っていくのだ。“オヨヨ”という感じで私たちは作業を中断して外に出る。

 しばらくするとバタンと扉の音、まだ出ない。ポリッシャー氏が“ちょっとのぞいてよ”と言うので仕方なく声をかけて中に入る。終わって化粧直ししてるんですね!。“作業続けていいですか”と訪ねると“あたりまえじゃん”風の表情で“どうぞ”。

 私なんかは、たまにデパートのトイレに入っていて隣に人の入ってくる気配がすると、しばらくそのまま固まって、ただひたすら終わって出ていくのを待って再開することがあるのだが、どうも若い人のトイレの使い方はフシギだ。これが、とっても珍しいこと、なのではなくて“いいですかあ”なんて言いながら入ってくる娘もいるのだが。
 人様の会社のトイレなので、私たちはダメというわけにもいかない。オヨヨである。
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