やましたさんちの玉手箱
ジャックの記事
連載
01 ナースが喰らっている 毎日のお菓子
02 医局 その神聖なる居室での メシ時のユルさ加減
03 ジャックの掃除はピッカピカ まず道具より入れ
04 ゴミ箱が物語る 患者さんの「生格」
05 探し物は何ですか 見つけにくいものですか
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ゴミ(清掃員)から見た病院の日常 入院前にお読みください

05 探し物は何ですか 見つけにくいものですか

いうこときかない、イヤホンのゴムカバー

 外科・整形外科病棟を担当しているHおばさんが、急に腰を痛めて昼で帰ってしまった。この仕事は腰痛がつきものなのですが、どうしたんだろう。
 翌日は休み、二日目に出勤したので、どうしたのか聞いてみた。“イヤホンのゴムのカバーが落ちてどこかにいっちゃった、というのでベッドの下にもぐりこんだんだけど、あるにはあったのね、ところがあいつは、ダスターで寄せようとするんだけど、床にへばりつくし、そうかとおもうと、その場でころころ回るばかりで寄ってこないのよね。もう少し奥へ入ろうと思って、右足踏ん張ったら、ゴキッてね、音がしたみたいに腰にきちゃってさ”といういきさつだったらしい。
 そう、このテレビにつけるイヤホーンのゴムのカバーがどこかに落ちてしまった、という探し物がけっこう多いのです。各ベッドには冷蔵庫と一体になったテレビがありますが、原則売店で売っているイヤホンで見ることになっています。ところが、これをはずす時に、コードを引っ張ってはずそうとするので、しっかりと耳に挟んだイヤホンがゴムのカバーだけがはずれて、紛失と相成るのです。

 おばさんの言うように、ベッドの下にもぐりこんだゴムカバーはなかなか取れない、強く引き寄せようとすると、よけいに言うことを聞かなくなります。向こうから、そっと、ゆっくり引き寄せるのがコツなのですが、あせるのでなかなかうまくいかないのです。
 わたしも何回も探しものをしたことがあります。本人もどこに落としたか分からない時があるので困ります。起き上がれる患者さんのときは、とりあえず起き上がってもらいます。お尻の下でつぶれていたこともありました。


下着は助手さんに任せる
 こんなことがありました。
 女性の6人部屋。奥の窓際にいらっしゃる、高年にさしかかった、と思われる方、もう二ヶ月ていどの入院生活。いつものように、ベッドの下にダスターモップを差し込んでのぞくと、頭の方の床になにやら布地が落ちています。色と形状からすると、どうやら下着ではないか、と思われました。どうしようか、ベッドの脇へ回って手を伸ばせば取れるけれど。
 いくら年配の方とはいえ、こちら、じいさんとはいえ、気恥ずかしいに違いない、と思って、看護助手のYさんを探しに。訳を話して取ってもらうことにしました。このYさんとは、実はあまりコミュニケーション良好とはいっていませんでした。でもここは、まかせてお願いするしかありません。

 私は仕事を続けていましたが、しばらくしてYさんがやってきました。“じゃっくさん、○○さんからありがとう、あなたはよく気が付く人なのね、ってほめられちゃった”とにこにこしていました。やっぱりよかった。
 この日以来、Yさんとは関係良好に、仕事のことで協力もしてもらえるように。些細なことですが、お互い信頼することは大切なことです。


四角い薬ってないのかしら

 ある日の、これも女性の病室。仕事で入ると、これは、中年のご婦人。“おじさん、薬に四角いのって無いのかしら、もう薬落とすと、転がっちゃって、どこへ行ったのかわからなくなっちゃうのよね”。
 実は数日前、この部屋でベッド下に薬が落ちているのを発見しました。ときどきあることなのですか゛、薬が落ちていたときは、ゴミとして捨てるのではなく、必ず近くの看護師に渡すことにしています。一日一錠の大事な薬であるはずですから。どの部屋のどの辺りに落ちていたか報告します。確かに薬は丸いのが普通で、見つけたベッドの患者さんのもの、とは限りません、隣のベッドから転がってきたのかもしれません。部屋の患者さんの薬の配分を確かめて、患者さんに後で薬の服用をしたか確認することになるのでしょう。
 この日、私に話しかけた患者さんは、看護師からしかられたらしい。薬を落としたなら、そう言わなければだめでしょう、と。

 薬を患者さんに渡して服用を言い、後でちゃんと服用したか確かめたときに、“はい、飲みました”と言ってしまったのでしょう。
 看護師も忙しいので、患者が薬を飲むのをその場で確かめながら、病室を回っていくわけにもいかないのも確かなのですが、これは看護師にも少し責任がありそうです。看護師に落とした薬を渡す時、看護師も少し複雑な表情をすることになります。これ、主任さんや師長さんに渡すとちょっとまずいことになりそうなので、必ず、看護師に渡さなければなりません。


おばあちゃんの入れ歯を探してくれませんか

 数ヶ月入院していた高齢のご婦人の容態が思わしくなくなってきて、個室に移されました。でも、掃除に入るのはいつも通り。病棟の掃除は、なるべく配膳が来る前に、病室ベッドのゴミ箱の回収をします。私は、一般病棟では、AサイドとBサイドのゴミを大別して大きなゴミ袋に、そして個室のゴミは多い、少ないに関わらず、一袋ずつ取り出して袋を変えるようにしています。
 この日、午後になって、このご婦人が亡くなった、と看護助手さんから聞かされました。わざわざ報告してくれるということは、後で病室の清掃が別途ありますよ、という連絡でもあるからです。

 そしてしばらくしてから、担当看護師さんが二人やってきて、“ご家族さんから、おばあちゃんの入れ歯が無いのですが探してもらえませんか、と言われているのですがお願いできませんか”と困った様子で言うのです。ベッド周りのものを整理したのですが、いつも棚に置いてあった巾着に入っていた入れ歯が無いそうなのです。もしかして、ゴミ箱に落としているかもしれない、いつも使っていたものなのでお棺に入れたい、というのだそうです。

 同僚のA野にも頼んでゴミの集積場へ。朝からのゴミが山になっています。
 ただ、私は今朝のゴミ回収でなんとなく袋の形状を覚えていたので、10分ほどで、それと思しきゴミ袋発見。まあ、無ければ無い、で、そう報告するしかないのですが、出来ればこの中に入っていて欲しい、朝ごみ回収したときに、巾着が中に入っていたのに気が付かなったことに、一抹の責任も感じてのそのときでした。
 で、ありました。紫色の巾着、触ってみると固い感触が。
 A野のほっとしたような顔。
 病棟のナースステーションへ届けた時は、看護師から歓声が上がったほど。
 そしてそれ以来、回収したゴミ袋には、マジックで日時、場所を書くように、作業員全体で実行するようになりました。これって、当たり前のことのようですが、面倒といえば面倒。でもそれ以来、サインのおかげで、探しものが確率よく見つかるようになりました。


見つからないと、師長に怒られる

 ゴミの集積場は病院の建物の外部にあります。ダストシュートで一箇所に積まれたゴミは大きなカートで随時、この集積所に集められ、業者が集荷に来ます。従って、もし、探し物があるときは、この屋外の集積所が最後のチャンスになります。
 冬の寒い午前中。若い二人の看護師が半袖の制服のまま、探し物にやってきました。薬品パッケージに張ってあるロットナンバーのシールを剥がし忘れて、ゴミと共に捨てられたパッケージを探しにきたのです。“見つからないと、師長に怒られる”と、半泣きの状態です。実は、この探し物案外多くて、たまーにですが、清掃員と看護師の宝物探しにお目にかかることがあります。
 このときは、作業ジャンパーを着ている私たちも寒い状態。“私たちで探すから、建物の中で待っていて”といっても聞かず、震えながら一緒に捜索。普通は業者が集荷に来る前であれば、時間がかかってもたいていは見つかるのですが、看護師は気が気ではありません。

 ようやく見つかった箱にキャーなんて言いながら、私たちには目もくれず、すっ飛んで病棟にもどっていきました。ヤレヤレ。


先生だって忘れ物

 病棟のナースステーションには、通称『白箱』と呼ばれるプラスチックの『感染性廃棄物容器』があります。感染性の物や血液の付着したもの、注射針やチューブ類などが捨てられ、密閉されて出てきます。
 一般病棟ではあまり数多くありませんが、救命救急センターからは、患者さんの数にもよりますが、日に数個の白箱が出てきます。

 ある月曜日の朝、主任さんから『白箱の宝探し』の依頼。金曜日か土曜日か分からないけれど、白箱に先生がつかったある道具が不明になってるとのこと。その日使用したオペなどに使用した器具類は、看護師がいったん始末した後、専門の材料室に消毒・滅菌のために送られます、貴重な器具はその都度チェックされるのですが、どうやらこの日の朝、材料室に送る段になって行方不明が発覚したよう。
 業者が集荷に来るのは10時を回った頃。センターの師長もあわてて集荷場に現われたくらいで、担当者、所長と私と、鍵のかかっている集荷場所から、業者集荷のない金曜午後から日曜までの全ての、白箱、そして汚物類を詰めて密封した段ボールすべてを野外に。二日間のサインのある白箱、ダンボール10個ばかりを見つけて台車に。いつもなら病棟から降ろす白箱を積んで、エレベーターで逆送。居合わせた看護師たちは、“あれ、また”なんていう表情です。

 さて、センターに運んだ荷物はどうやって開封するか。もちろん、ごく最近までは大きなビニール袋を用意、一つずつ開封して広げて探していたのですが、あるときこの様子を見ていたレントゲン技師が“透視にかければすぐ見つかるよ”という、腰が浮くような言葉で捜索模様は一変。全てレントゲン室に運んで一つずつ透視にかけることに。こんな様子はいつもは患者さんたちのレントゲン写真を仔細に見ている医師たちも、見たことが無いので、レントゲン室は人だかり。内部のゴミ類が仔細に映し出されます。
 全ての白箱類が調べられ、無い。これが最後、とレントゲン技師もクイズのMCごとくに周りを見回して、透視をかけると、あーらふしぎ、映っているではありませんか。一堂、大歓声。
 先生、使ったものはちゃんと返してくださいよ。
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