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ジャックの化粧マン生活

目尻の小じわを隠す 不思議な化粧品 その3

同行販売開始。

前回で少し紹介していますが、目元に塗るだけで小じわが一時的に伸びる、という分かりやすい商品の「セクレーヌ」ですが、逆に“本当なの”と、なかなか納得してくれにくいものです。また、高額商品なので取ってくれる店も限られてくるわけです。
 O商店でもこうした特殊な物を扱えるセールスは限られているのです。私が初めて同行したのは長身の40歳台の男(この時代、この商店には女性のセールスはいませんでした)。現在はどうなのでしょう、メジャーなメーカーには必ず女性美容部員がいたのですが、こうした問屋にはいませんでした。
 彼の受け持ちは北区、豊島区といった辺り、当初例えば銀座周辺への店が対象か、と思いましたが、意外でした。後で書くことになるのですが、こうした商品は大きくてきれいな、人が良く集まるような店より、こじんまりした店、店主と顧客が非常にコミニケーション豊かな店が売りやすいようです。販売単価が高いので、成功すれば店にとっての利益追求にはまる、ということのようです。

 これは結果としてなのですが、数多く同行販売しましたが、その場で納品にこぎつけるということは、ほとんどありませんでした。私なりに理解したのは、すぐに手を出す、ということが沽券にかかわる、といった雰囲気がありました。どの店でも話は聞いてくれますが、フンフンといったように、あまり関心がない風情なのです。もっとも、納品の条件など、セールスとのやり取りは、メーカーの人間のいる前ではできない相談と言う事でしょう。

 同行販売で参考になったことがあります。私はもちろん、スーツスタイル、セールスもスーツですが、この男は店に入る前、近くの店のウインドウに自分の姿を映して、髪の乱れ、ネクタイの曲がりなどチェックしていました。そこまでは見えませんでしたが、口元和らげて笑みの試しもやっていたのかもしれません。こうしたことを思い出すたび、町を歩いていてセールス、いや営業マンと思われる人の髪のだらしのないこと、スーツのズボンの皴、一様に先の尖った靴、もう一つ、持ち歩くカバンの安っぽさが、どうも目に付きます。

 何しろ私ときたら、社長の命令でスーツは白地に焦げ茶が霜降りツイードになったようなもの。(もちろん仕立て代は会社持ち)彼が香港で買ってきたというグッチのトランク(多分コピーだと思っていましたが)。いや、町歩いていると目立ったと思います。どこか芝居がかっていて、自分でもおかしかったです。因みにこのスーツは同行販売の時にしか着ていませんでした。

 東京で同行販売したのはこの日の数件だけ。どの店が取ってくれたのかは後日、O商店の取引担当の年配の社員から伝えられただけ。一軒の店に納品されたので、何回か訪問してください、ということでした。地方はこうしたフォローは難しいのですが、以後、東京では何軒かの店を定期的に訪問する事になりました。こうした「特殊な店」の紹介はまた、別項で書くことにします。

 東京では、比較的『小さな店』が販売店として成功していきましたが、これとは対照的に大型の専門店の例もありまた。京都の四条川原町にあるH店は、京都を代表する、というより当時、化粧品の専門店としては日本でもトップクラスの店でした。こうした店ではいわゆる対面販売というより、メーカーの宣伝力があれば売れる、という方向です。同行販売を続ける内に、こうした店の要望が多く見られるようになり、我が社も初めて宣伝広告をせざるをえなくなりました。
 今の時代、マスコミへの依存は当然のこととなっていますが、当時、広告で商品を売ろうという考えはなかなか発想されませんでした。私も編集部暮らしが長かったので、雑誌への広告出向は知らぬ世界ではなかったのですが、さすがに広告を出す立場になると、知らない事ばかりです。
 そして、広告代理店なるものとの付き合いも始まりました。なるべく安い広告料で、ある程度のステイタスも得られる婦人誌という、虫のいい話も、代理店の担当者はそれなりに理解してくれて、『F画報』という媒体に出稿が決まり、カラーの広告が載りました。いやー、私も嬉しくて、あちこちの店に見せて回りました。しかし、広告がすぐに販売に結びつくほど甘くないのは当然のこと。でも、社長はもう一流紙に載った商品として、こちらは銀行筋などへいそいそと出向いていきました。

 対面販売といえば薬店で販売が伸びる、という現象も分かってきました。問屋からの納品先は当然化粧品店といことになりますが、薬店で化粧品を扱っている店も多かったのです。そして、こうした店はメーカーの化粧品を扱いながらメーカーの美容部員が販売する方法をとっていました。こうした美容部員は自社のものは当然のこと、セクレーヌにも興味を持って、肌のアドバイスかたがた、販売にも協力してくれたのです。

 こうしてセクレーヌもだんだんと、業界で市民権を得ていきました。
 次回はドサ回り開始


この記事は連載です。
 ジャックの化粧マン生活
  目尻の小じわを隠す 不思議な化粧品 その1
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