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夏休みだ 汽車だ 窓辺だ ビールだ 地図だ

汽車旅の 教科書 有ります
『鉄っちゃん』『乗り鉄』を自任する、作家 関川 夏央 氏の次の二冊です。
「汽車旅放浪気」 2006年刊 新潮社 1.700円 282ページ
「寝台急行「昭和」行」 2009年刊 NHK出版 1.400円 245ページ
汽車

 ジャックは、鉄っちゃんでも、乗り鉄でもありませんが、日本全国かなりの路線に乗車しています。輸入化粧品の販売促進の仕事を2年ほどやっていたことがあって、その間に二周り、全都道府県(沖縄を除く)の問屋さんを商品説明に歩いたのです。車に乗れないので、ひたすら列車とバスを乗り継いで行きました。

 その後、金融機関の会員情報誌を約10年近く取材。この時も全国の主要都市の金融機関を訪問し、近郊の名所や観光地を訪ねています。この時は機関誌の担当者と同行、地元からは彼の運転のレンタカーで移動することが多かったのですが、ローカル線のあるところでは、車内や車外の光景も取材しようと、車で先回りしてくれて、私だけが電車で移動という計らいをしてくれました。
 そんな旅の中で印象あるものを三つ紹介します。他人の旅行の話ほどつまらないものはない、というのがジャックの持論ですが、この本を紹介するには欠かせないものなのでご容赦を。

 雪の降りしきる『花輪線』 盛岡――大館
 弘前のりんごのお菓子を取材することになった時のこと。まだ東北新幹線もないときで、航空機で青森へというのが最もスピーディな方法でしたが、当時は自営で編集会社をやっていた時代、急ぐこともなく、盛岡からかねて乗ってみたいと思っていた花輪線へ。
 盛岡からは雪がだいぶ多くなっていました。途中駅で、ホーム側の座席の方が、曇った窓を、ちょうどまあるく手で拭きました。丸い窓の外に降りしきる雪の中、ホームを歩いていく人、突然丸の中に駅長さんが現れ、後部に向かって勢いよく手旗を振るのが見えました。“これは絵だ”とカメラを取り出そうとしましたが、バッグからカメラを取り出し、レンズを嵌め、フィルムを装てんし、なんてとても出来ない、とただ見とれるだけでした。
 何てことない光景でしたが今でも忘れられないこと。それ以来、どんな時でも、カメラを手許におくようになりましたが、たいした写真は撮れていません。

 野焼きの煙がたなびく『信越線』 
 新潟県・米山近くで、酪農を営む若いご夫婦と小学校に通い始めたお嬢さん。お母さんが手作りで、牛の成長を娘のために本にしたという地方紙を見て取材に。
 帰途、直江津から長野へ。米山に雪がすこし残っていたころ。左側に座っていた天気の良い日。広い畑が続く中で、野焼きといいますか、草を重ねて焼いている煙が立ち上っていくのを眺めながら、つい先ほど、駅まで送ってくれたご主人が“こうして3時間あまりでしたが、親しくいろんな話をして、友達になれたのに、これでおそらく僕たちとは二度とお目にかかれないのでしょうね、これが一期一会でしょうかね”と話してくれたことを、思い出していました。
 多いときは過去、一月に6~7人の人と一期一会の取材でお会いした人々ですが、野焼きの煙と、あの時のご主人の言葉が忘れられません。

 チョウ有名になった五能線 五所川原――能代
 編集プロダクションを辞めて、独立して仕事を始めようとしたとき。これからはあまり自由に時間がとれないだろうと、念願だった三陸鉄道を起点に東北へ。

 仙台から仙石線で石巻、気仙沼線から、三陸鉄道南リアス線へ。宮古で一泊、翌日は三陸鉄道北リアス線で八戸まで。(ジャックが行った時と線路名行程はちょっと違っているかも)。そして恐山へ、中の小屋にある湯にも入って、その夜は薬研温泉泊。
 翌日はバスで大間へ、大間からフェリーで函館、湯の川温泉泊。
 連絡線で青森へ。これもかねてから念願、津軽鉄道で金木へ。当時はまだ旅館として営業していた、作家・太宰 治の生家「斜陽館」に宿泊。

 そして、いよいよ、五能線へ。
 日本海を眺めたいので、座席を右側に。ひたすら、海を眺めながらの行程、この日、買いそびれたのか、その気がなかったのか、車中で飲んだ記憶がないのです。

 ことほどさように、忘れられない汽車の旅も、体験した者によっては、山あり、河アリ、海はあったけど、景観自体は特筆するほどのことはないのだけれど、なぜか、何年経っても忘れられないものだったのです。

  遅くなって、遅くなってしまいましたが、紹介した本です。
「汽車旅放浪気」は、近くは『都電荒川線』、少し離れて千葉の『久留里線』『いすみ鉄道』、先に紹介した『津軽鉄道』、トンネルの代名詞・上越線。そして、旅行作家の神様的存在の宮脇俊三の後を追う鉄道の想い。夏目漱石が乗った汽車の記述などが並べられています。

「寝台急行「昭和」行き」は筆者が、究極のローカル線という『鶴見線』から、『オリエント急行』、『アンデス高原列車』、と幅が広く、またローカルで味わえる地方のグルメじゃない、行き当たりばったりの食事の様子など、これもまた、中身を紹介していくと、そのまま本になってしまうような、こまった本。

 もう一つ紹介しておきたいのが「60歳からの青春18切符」 2009年刊 新潮社・新潮新書 680円 189ページ
汽車
 青春18切符については、ネットで調べられるので、ここでは割愛。とにかく、若い人に安く鉄道旅行を楽しんでもらおうと、始めたものが、暇な中高年が中心となってしまった、いわば昔の周遊券のようなもの。一筆書きのように一泊・二泊で汽車旅をするもの。今で言えば「中年60切符」とでもいいましょうか。そして、このような本が出来上がったというもの。
 テーマ別にモデルコースが紹介されているので、旅行初心者には格好の汽車旅本。東京、名古屋、大阪などを起点にしたコースが紹介されているので、地方旅行の、オプショナルとしても面白そう。

 三冊に共通しているのは、その地を中心とした地図がのっていることです。地図を見るだけで旅行気分という人もいるようで、いわゆる日本地図、時刻表にある地図とはまた違った、旅行好きには格好の地図が載っているのが楽しい。
寝台急行「昭和」行
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