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ついに復刻!隠された名作「荒野の少年イサム」

荒野の少年イサム 1 (復刻版コミックス)
川崎 のぼる 山川 惣治
集英社
売り上げランキング: 23,261
やっと、ついに、復刻版が来ました!「荒野の少年イサム」この復刻版をどれほど待ち望んでいたことか…ということで、2013年12月に最終巻の5巻が出るのを待ち、大人買いしました。

この作品との出会いは、年の離れたイトコの家の本棚から拝借して読んだ時です。当時はまだ小学低学年くらいだったと思うのですが、子供心に「絵がきれいで見たことなくてスゴイ(当時の感性ですが、要するに丁寧に描かれていて個性的なテーマがありインパクトがあるということです)」…と、一気にハマってしまったものです。
この漫画が欲しくなり、親におねだりしたり、古本屋で探して見つけてきたりしたのですが、これにかなり苦労した記憶があります。

というのは、1970年代の作品で古かったこともあり、早々と絶版して入手が困難な作品だったからです。
それでも漫画の黄金時代に週刊「少年ジャンプ」の看板作品として大ヒットした名作であり、発行部数は多かったはず。しかも「巨人の星」を描いた川崎のぼる氏の作品です。それなのに、早々と絶版してしまい、一時期は文庫本として復刻するも間もなく絶版、そして2013年まで長らく復刻することはありませんでした。

なぜそんな人気の高い名作がすぐに隠れてしまったのか。
それは作品の「テーマ」が問題だったらしいのです。
舞台は開拓時代の西部劇。アメリカの先住民インディアンと黒人奴隷が登場し、深刻な人種差別問題が描かれていました。
また、主人公のイサムは拳銃を持って人を撃ち殺す場面が多く、それらが問題視されてしまったようです。

でも、西部劇を舞台にして黒人奴隷に触れないわけにもいかないし、インディアン問題も描かないわけにはいかないですよね。
また開拓時代というものは、治安が非常に悪いもの、銃撃戦は日常茶飯事ですし、強盗から身を守るためには拳銃を持って抵抗しないと生き延びることはできない…と、孤児院の女先生が銃を隠し持っているくらいなのですよ。
もし、主人公イサムが一人も殺さずに生き延びたとしたら、私は作品を最後まで読まなかったと思います。当時のサーヤは子供でしたが、作品のテーマや何を訴えようとしているのかは理解できており、真剣に読み込んだものです。

確かに白人の人種差別や奴隷制度は残酷な描写がありました。でも、作品は「黒人も同じ人間だ」と訴えていますし、白人と黒人奴隷の身分を越えた和解エピソードもあり、それは尊く美しいものとして描かれています。
インディアンの襲撃事件があり、その最中はインディアンが悪党のように描かれていますが、襲撃を受けた白人の一人が「私たち白人がこの土地に乗り込んできて、彼らの大事な野牛と土地を奪い追いやった、彼らはそれに立ち向かっている」とインディアンに理解を示すシーンもあります。

またイサムは確かに人を撃ち殺すシーンは多いですが、この舞台において止むを得ないことであり、彼は葛藤したりします。出来る限りは命を奪うことを避け、素手で格闘して場を収めるのも多々あり、イサムの不殺生精神と優しさは一貫して描かれていました。

この作品は「人としての理想」を追い求めながら、「現実の厳しさ」も描かれているので、そのバランスがこの作品の魅力だと思っています。
差別的表現がなんですか、少年漫画らしく「正義・友情・平和」はちゃんと描かれていて、私はこの作品こそ今の子供たちに読ませてあげたいですよ。


さてさて、堅苦しい紹介はここまで。
作品そのものについてノリノリで紹介しますよー。

実はサーヤは川崎のぼる氏の作品はほとんど読んだことがありません。「巨人の星」も途中で挫折しました…。なぜかって、ついていけない…ものがあったから(笑)。
なのに、「荒野の少年イサム」はハマりまくって、頑張って巻数を揃え、それもボロボロになったので復刻を長いこと待ち焦がれていたくらいでした。
これ、自分でも長いこと謎だったんです…そして、今回の復刻版を手に入れて判明しました。

「これ、原作付きだったんだ!!」(なぜ気づかなかった)

あの「少年ケニヤ」を描いた有名な絵物語作家(絵芝居作家)、山川惣治氏の「荒野の少年」を原作としてアレンジしたものだったんですね。
確かに川崎のぼる氏にしては異色作と言えるくらい、他作品とは違った雰囲気があったのですが、納得でした。

原作付きですが、川崎のぼる氏のアレンジやオリジナルは沢山入っているようです。
序盤から終盤まで活躍する黒人アウトローのビッグストーンという青年はオリジナルですが、これがもういい男で(笑)。復讐心に取り付かれ、キザったらしいけど実は人情のある凄腕のガンマンで、もーカッコイイ!(だからあまり差別的表現というものは作品から感じないのです)

つぎは、子供心に「絵がスゴイ!」と思った絵柄の魅力。西部劇の雰囲気をたっぷりと描き、丁寧なペンタッチで細かく描かれていました。
荒野の少年イサム 1 (復刻版コミックス)
この画像だけでも、スゴーイってのがわかるでしょう(笑)
でも、いま改めて思い返しても、この画力で「少年ジャンプで」毎週連載(しかも当時は他の連載も抱えていた)したというのが、すごい…。

馬の描写もステキで、沢山の馬が出てくるのが幸せでした…(馬好き)。
凄まじい銃撃戦もある漫画では馬の一頭や二頭死んじゃうだろうな…と心配していたのに、なぜか意外と死なない(笑)。猛獣とか犬とかは簡単に死なすのに…川崎のぼる氏、馬好きですか?

そうそう、大事なこと忘れちゃいけません。
主人公イサムは「日本人とインディアンのハーフ」なのです。赤ん坊の頃にインディアン母は死亡し、日本人父とは生き別れてしまうので、自分の出生を知らないまま育つのですが、そこは血なのか日本人の気質を持つ青年として成長するのが嬉しいところです。

そのイサムの成長期は過酷なものです。幼少期に有名な悪党ウィンゲート一家に拾われて、英才教育ならぬ悪党教育(?)を徹底的に叩き込まれて育ってしまいます。
普通なら心身ともに悪党として罪悪感を持たずに成長してしまうのですが、日本人としての気質と、幼少期までを集落の優しい人たちに愛されて育ってきた土台があったので、悪党に染まりきれず苦しみ葛藤するのです。

しかし、本当にイサムは日本人としての気質が強いです。
争いを好まない穏やかな性格ですが時と場合によっては優柔不断(笑)、約束は守ります、恩は忘れません必ず返します、コツコツ生真面目に働きます、気遣いなら得意です、素直に言うこと聞きますハイ、自己犠牲ならおまかせあれ、恋…そんな恥ずかしいモジモジ、謙遜こそ美徳なんでも譲りますよ、……あれ意気地なしとして怒られちゃった(笑)
そんな感じなので、もう感情移入しちゃいますね。
これほど日本人らしさを描いた主人公はそう居ないんじゃないでしょうか。だから西部劇という舞台においてそんな彼がどのように生きて活躍するのか、それが一番の見ものですね。

この作品は復刻版は全5巻、当時のコミックスは全12巻ですが、展開が目まぐるしくてドンドン進んでいくので、読み始めるともう一気読みです。濃密なエピソードが次から次へと移っていくのがすごいです。全然飽きませんとも!!

そして、西部劇としての要素をふんだんに使ってくれています。
まず星一徹ばりのアウトロー教育(笑)、砂金の収集場、孤児院襲撃、黒人奴隷の実態、酒場の賭博、馬泥棒や銀行強盗、銃の決闘、暴れ馬、投獄から裁判(イサムが容疑者)、牧場勤務、カウボーイ大会、インディアン襲撃、恋敵出現に男の殴り合いの和解(笑)、ヒロインの拉致(これぞ王道)…と、モロモロです。

ここで私のイチオシは、投獄から裁判と、インディアン襲撃です。
西部劇の裁判風景なんて知らないから、見応えあって面白かったのです。しかしここでも「無罪か有罪か」の両極論が実にアメリカンでした(笑)。
インディアン襲撃は、個人的に一番盛り上がったところですね。駅馬車の中継所に白人や黒人奴隷、悪党ウィンゲート一家やビッグストーンも勢ぞろいの場所で、突然にインディアン集団に襲撃され格闘するのですが、この人間模様が非常にドラマチック。
この中に妊婦の黒人奴隷を蔑視する白人女性が居るのですが、この襲撃によって変容していく様子がステキなエピソードでした。

ああ、まだまだ語りたいことがあるのですが、いかんせん長すぎてきました。このへんにしましょう。
これも永久保存すると決めた面白い作品ですので、オススメです。
この復刻版と一緒に、なんとKindle版も出てきました!どうしたんでしょう、テーマが微妙で長いこと復刻されなかったのに一気に出てきましたねぇ。でも、また何かあってすぐ絶版されちゃうかもしないので、ぜひ今のうちに☆
コミックス版 Kindle版
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川崎 のぼる 山川 惣治
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