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愛する鳩たちの軌跡「レース鳩0777」

レース鳩0777  【コミックセット】
飯森 広一
秋田書店

これを見て「なつかしい!」…と思う人いないかな?30年以上前の作品なのですが。
今は絶版となり、読むには中古品(超レア)を買うか、電子書籍eBookJapanで購入ダウンロードするしかありません。

貸本屋の常連だったユフィ母の影響を受けて、サーヤも自分が生まれる前から現代までの幅広い漫画に詳しくなっちゃいました。小学低学年の頃、この作品に出会ってハマってしまい、何度も何度も貸本屋から借りたりしてました。
レンタルできるからいつでも読める…と思っていたら、絶版になり貸本屋からも消えていた!オーノー!慌ててあちこちの本屋をめぐり、やっと見つけた全巻をジャック父に頼んで買ってもらいました(当時の自分のお小遣いでは買えなかった)。

さて、タイトルから判るように、これはレース鳩と飼い主の物語です。
1巻は鳩がリアルに書かれており、物語も地味に始まっていくのですが、主人公の次郎がアラシ号という鳩を育ててレースに参加するあたりから、絵柄も見やすくデフォルメされ物語も俄然面白くなっていきます。

この作品の良いところは「リアリティ」です。少年漫画らしく子供も楽しめる内容になってますが、実際の鳩レースはどんなものか、日本の気象や地理、自然界の仕組み、厩舎や鳩の世話の仕方、鳩の生態、レース鳩協会のあれこれ…などが細かく判りやすく描かれています。レース鳩を知りたいという人がいたら、間違いなくこの漫画を薦めます(時代は古いですが)。

昔でも現代でも、少年漫画というものは最初は堅実な設定でスタートしても、ヒットして連載が続いていくうちに、本来の目的から道を踏み外してファンタジー化しちゃうものなのです。しかも無駄に長くなるし、途中で購読を止めたことが数知れず…。
でも、この「レース鳩0777」はそんなことなく、鳩レースの舞台の中で様々なストーリーを展開し、感動するクライマックスに持っていってくれました。あんな沢山のレースを濃い内容で描きながら、14巻完結というのがスゴイ。(あの「ベルサイユのばら」も10巻ちょっとで完結してます)

次の魅力は、登場人物と鳩たち。
レース鳩の飼い主たちはみな個性的で、かつレース鳩を飼うに至る背景と動機がしっかりしています。その飼い主たちに育てられた鳩たちも、影響を受けて個性的かつ特化した能力を持っています。

親に期待されている秀才少年が飼う、短距離の賞を総なめにするトップ号。
事故で下半身障害となった少年が飼う、筋肉質で力強いイナズマ号。
母親を亡くし義母に懐けない少年が飼う、方向感覚に優れるオフクロ号。
劣等感が強く利己的な少年が飼う、夜目が利く気性の荒いビャクヤ号。
レース鳩の名人が飼う、名鳩と呼ばれるアラシの父であるグレード号と、ハングリー精神の強い兄であるマグナム号。

対して、アラシ号はというと、主人公の次郎がごく普通の家庭の男の子なので、やはりアラシ号も性格・能力ともに「平均的」。
秀でるところがあるといえば、名鳩の息子というサラブレッドであることと、レース鳩には素人だった次郎が懸命に勉強してスキルアップしたように、アラシ号も経験を積むことで的確な判断力を発揮できるようになったことか。
つまり、人間がちゃんと描かれていて、鳩たちもその人間の影響を受けているという設定が上手いのです。

さて、肝心のレースはというと。
レース鳩たちは特定の場所から放鳥され、飼い主が待つ厩舎を目指して帰っていく。それだけが鳩たちの使命であり目的。
そんな鳩たちの戦う相手はなにか?それはライバルの鳩ではなく、「自然」
悪天候の名所、異常気象フェーン現象、天敵となる隼や鷹、断崖絶壁の山々、地震や台風。実際の日本列島の地域と気候がそのまま漫画に描かれています。
これを特化した能力と欠点を持つ、個性的な鳩たちがどのようにして乗り越えていくのか、この展開がすごく面白い!

このなかの一つをちょっと紹介。
レース鳩たちが放鳥された後で、地震が発生。これが鳩たちには困ったことになる。空を飛んでいるんだから地震は関係ないだろう…と思うのですが、実は多大な影響がある。その解説にへぇー!となる。
当然アラシたちも困ったことになる。そこで、ある鳩が意外な行動をとり、意外な優勝となる。これには次郎も当の飼い主も「?」となるのである。
ふと、次郎がその飼い主の部屋であるものを見つけて、その答えを知ることになる。これには大いに納得!それが飼い主と鳩の絆によって育まれた成果であることに、思わず涙ぐんでしまう。
どういうことなのかは、ぜひ漫画を読んで欲しい。

堅実な設定と実在の出来事に基づいた硬派な作品ではあるが、少年漫画らしく熱い!悪条件に必死に立ち向かう姿とか、好きな飼い主の所に帰りたいと奮闘するする姿とか、ライバルが時として励ましあう展開とかが、ドラマチックで目頭が熱くなる。
実は、鳩たちはしゃべる。人間とは通じないが、鳩語というのか?鳩同士で会話ができる。漫画ならではのデフォルメ展開だが、これでメチャクチャ感情移入する。

だが、レース鳩という人間側の都合で生まれたレースは、やはり人間側の問題点も浮かび上がってくる。
レース鳩を珍しがったマスコミのヘリに追われたアラシは、悪い成績を残してしまう結果に。後日、次郎は新聞にアラシの写真を見つけて憤慨することに。
そこから、物語は終盤に入っていく。
レース鳩を報道したいとマスコミが持ちかけることで、北海道から東京への3000キロという過酷な長距離レースが企画される。
様々な思惑が絡む飼い主たち。参加するかどうか…。

結局、ほとんどの飼い主と鳩たちが参加することになります。
そして、怒涛のクライマックスへ…。

もう涙なしには読めません。

この「レース鳩0777」全巻は永久保存版ナンバーワンであり、死ぬまで手放すことはないでしょう。ゆえに「やま玉」の娯楽室でサーヤが紹介する最初の漫画に選びました。
これは本当に良作なので、文庫本などで復刻して欲しいと願っています。
※Amazonではレア物なので高額ですが、eBookJapanでの購入ダウンロードなら一般のコミックス金額で読めます。14巻全巻です。
なお、以下の環境なら購読可能です。(ほとんどの機種で可能)
Windows/Mac/iPhone/iPod/iPad/Android/Windows Phone
 Amazonで紙書籍としての購入(中古につき在庫切れの場合はご容赦ください)
レース鳩0777  【コミックセット】
飯森 広一
秋田書店
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