やましたさんちの玉手箱
ジャックの記事
読切
TOP > クローゼット > アラ6の身だしなみ

草履を買いに浅草へ

 ユフィが所要で銀座へ出かけた帰り、歌舞伎座の地下にある出店で、いわゆる歌舞伎柄の足袋型の靴下を買ってきてくれました。ジャックも今まで手にしたことのない、洒落た靴下、私がそこを通りかかったとしても、もしかしたら、同じものを買っていたかもしれません。
 しかしながら、私が今履いている夏用のスリッパ、草履の類のなかで、この靴下を履いて似合うものはありません。ここで、せっかくの買い物、これに合う草履を揃えなければならない、と決心。草履の店に買い物に行くことにしたのです。ネットで調べると、東京に専門店が数件、比較的近くの門前仲町にも店があることがわかりましたが、歌舞伎柄のイメージから浅草の店まで探しに行くことにしました。



 都営地下鉄・浅草駅(おそらく、首都圏の地下鉄、いや一般の駅のなかで、全くバリアフリーに程遠く、且つ不可能と思われる駅だと思われる)下車、いくつもの古い石段を上下すること度々でようやく地上に出ると、若い浴衣姿の二人連れが前を歩いていきます。と、いきなり男性の方がかがみ込んで、草履を手に取っています。何事かと近づいてみると、鼻緒の先(前坪)にテイッシュを巻いているようでした。草履を履きなれないと、しっかり先まで指を差し込もうとして、指の股を擦りむき状態にします、多分痛くなったのでテイッシュを緩衝代わりにしたのでしょう。


後でいただくことになる辻屋さんのパンフレットに、履き方のアドバイスが書いてあります。『鼻緒の真ん中にある前坪を親指と人差指の股の奥まで入れず、少し隙間が出来る状態で、かるく指に引っ掛けるように履きます。歩きは、摺り足を意識します。歯のある下駄で上手にこの歩き方ができたときに、カラン コロンと 小気味のいい音が鳴るのです。』

♫ 下駄をならして奴がくる
  腰に手ぬぐいぶら下げて
  学生服にしみこんだ
  男の匂いがやってくる
かまやつ ひろし 作詞 作曲

 おしゃれなイメージではありませんが、昔の、所謂バンカラ学生が、高下駄(朴歯)を引っ掛けて歩く様子がうまく歌われています。
これを、鼻緒の先まで指を入れて履くと「ガシガシ」と地面を噛む音になり、迫力が出ます。

 指先に引っ掛けて履く、という使い方では「ツッカケ」という履物が有りました(今もある)。「便所サンダル」と揶揄されるもので、足形の細長い木の台の指先の方に、左右を被せるようにベルトを渡したもの。文字通り、便所の入り口から便器まで、ちょっとツッカケて用を足すものです。昔の土間の台所などであるき回るのにも便利に使われていました。


じゃっくが使っている「かっこ」

 こんな歌もあります。
♫ 雨がふります 雨がふる
  遊びに行きたし 傘はなし
  紅緒(べにお)の木履(かっこ)も 緒が切れた

北原白秋 作詞  弘田龍太郎 作曲

 木履は下駄のこと、子供の下駄・駒下駄を履く音かカラコロと鳴ったことから。子供の下を、かっこ と言っていたのです。

 子供の草履についての歌もあります。
♫ 春よ来い 早く来い
  あるきはじめた みいちゃんが
  赤い鼻緒の じょじょはいて
  おんもへ出たいと 待っている

相馬御風 作詞  弘田龍太郎 作曲

 じょじょ は草履のこと、子供言葉でそう言っていました。「かっこ」も「じょじょ」も、所謂、お の ま と ぺ で、いかにも日本語の、きれいで、かわいい言葉に歌われています。

 閑話休題 そう、浅草・伝法院通りの履物専門店『辻屋』に向かっています。30代と思われる小柄の店員さんと女性が店に。私は、上履き用の草履を買いに来た旨を告げました。既製のもので2万から3万とのことで、1万程度で収めたい、と言ったら、鼻緒の好みのものを選んでもらって、台と組み合わせてのオーダーになるとのことで、そのセンで頼むことに。色とりどりの柄の鼻緒が並んでいるなかで、シンプルで白の目立つ鼻緒に決めました。この色模様は、歌舞伎の中村屋の屋号になる配色なのだそうで、初めて知ったことになり、また、靴下にもちょうど合うかと、満足の選択となりました。夏で仕事場が混んでいるので、2周間ほどかかると聞いて終えました。



辻屋さんの店

いろいろな草履、下駄が並んでいる。 この写真の下の二段は「便所サンダル」ではない、きれいなつっかけ。


色とりどりの鼻緒、ここから好みのものを選んで、台と組み合わせてもらう。 店の向かいは、着物のレンタル、提携店のような感じ。


ジャックの草履生活、これは夏用。 冬用の草履と足袋3種。

 待つこと2周間と3日、辻屋さんから電話、で受け取りに行くことに。実は、初めて行くときに、ネットでいくつかの店を調べてみました。辻屋さんにつても調べてみました。お客さんの声の中で“無愛想で気分が悪かった”というのがありました。まあ、老舗の店では、仕事一途で愛想はまた別、という店があることも、これまたよくありそうなこと。で、私も少し、緊張気味で行ったのですが、冒頭にある通りのお店の様子。書き忘れていましたが、お店を見ているとき、ふと振り返ると、椅子の上の小皿にスズメがやってきて、何やらついばんでいます、決まった時間にやってくる、ということで、お店を開けるとすぐに来るようです。我がマンションのベランダにやってくるスズメと同じです、カーテンを開けるとすぐにやってくるのです。なにか、ほのぼのした店です。

 さて、電話もらった翌日店へ。いらっしゃいました。おはようございます、と言っても目を上げるだけ。そう、草履の台を逆さまにしたようなお顔、鼻緒が入っていない状態の、茶色のお肌。と、すぐに奥から、番頭さんと思しき50代くらいの男性現れて、“直ぐにお持ちします”。そう、伝説の店主にお目にかかったわけでした。

 鼻緒がキリッと目立ちます、浅草の店で正解。





組み合わせてみた。なんか、おしゃれな駕籠かきみたいな感じもする。ジャックはこの年で篭も担がないし、飛脚もやらないけれど、まあ、足元軽く動き回るとしようか。


帰りがけ、下駄のストラップを見つけた。マンションの鍵と一緒のキーホルダー代わり、真ん中にあるのは、昔ユフィが台湾旅行の土産に買ってきた水晶の馬。右は、この店の経営者は姉妹だという。丁寧なメッセージが嬉しい、ただ、茶色のクラフト紙を使ったぽち袋で、危うくダンボールと一緒に捨てるところだったよ。表に一言入れてくれると良かった。
▲ページTOP