やましたさんちの玉手箱
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『今』の時々の言葉、風潮をジャックのアマノ的考察で、都度、刻んでいく。
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現在刻語事典

其の十二 プラスチック ストロー

 全国的に海洋汚染が問題になっています。主犯はプラスチックで、魚介類の体内からも微粒のプラスチックが見つかる、というほとだそうです。減らせるところから減らそうということで、世界的なコーヒーチェーンのメーカーが、プラスチック製のストローを全廃する、ということを始めました。日本でもファミリーレストランなどで、この動きに同調することが社会的になっています。
 ジャックにはあまり関係ないことなんだけれど、ほんの少しだけ、ほんの思い付きだけ、だけれど、一言書いてみたくなって、事典に加えることにしました。


 子供のころだけれど、よく連れ立って遊び歩きました。初夏のころになって、田圃でカエルが鳴くようになると、捕まえに行くのです。あちこち、青ガエル、ヒキガエルなどいろいろ、いくつでも捕れました。でどうするかというと、悪がきの一人が、その辺の藁ズト切って
ストローにして、カエルのお尻から、プっと、息吹きます。
  カエルのお腹膨らみます、あまりやりすぎるとパンクして死んでしまうので、適当に。そしてそのまま田圃に放すと、白いお腹上にして、プカプカ、手足バタバタ。それが可笑しくって大笑い。カエルがどうなったかはわかりません。放屁したのか、ゲップで戻したのか。カエルの祟りは今のところありません。

悪がきたちのことを知っていたのかもしれません。婆さんが“ジャック、ガマの背中のブツブツには毒があるから触っちゃいけないよ”と言ったのを思い出して、ガマが出てきたら、ワッと言って逃げたものです。

 学生時代にはコンパをよくやりました。金もないのに飲むことには、この頃から熱心でした。何時だったか、ある男が“ストローで酒飲むと早く酔っ払える”と言い出してやりました。いくら早く飲む、といっても多少は口の中でクチュクチュして飲むものです。ストローじゃ胃に直結、確かにあっという間に酔って、ゲロ吐いちゃいました、もったいない。

 ジャックは子供のころはもちろん、今でもめったにストローを使うことはありません。家でビール、お酒、焼酎、時々ワイン、ストロー使うことありません。ごくたまに、友人夫妻たちと食事会やって、二次会でお茶のみに入った時、コーヒーなどは頼まないで、クリームソーダ頼みます。一人で店で飲むものじゃありません。
 そんなとき、スプーンでアイスクリームつまんで、アイスクリーム少なくなったところで、ストローの出番になることあるのですが、アイスのぐちゃぐちゃになったのが、ストローに引っかかって、ソーダが入ってきません。結局、グラスからぐいっていうことになります。

 しからば、ストローはどんなシーンで使われているのでしょうか。ジャックが見かけるのは、街のコーヒー店で、デリバリーのできるカップの蓋に無造作に突っ込まれたストローをすする、若い姉ちゃん兄ちゃん(主に姉ちゃんが多いか)。はたまた、ママ友たちと、そのガキども(何時も失礼、お子様たち)がファミリーレストランでのひと時の食事の時か。グラスにおっ立ったストローからアイスコーヒーやジュースをすする。この時も、胸元にグラスを持ってきて、やおらすする、というより、テーブルの上のグラスに顔近づけてすする、というシーンが多いか。

 俗に、皿に顔近づけて、もの食うのを「犬食い」と言いますが、テーブルで飲み物すするのは「猫飲み」とでも言うのでしょうか。
 お食事についてくる飲み物は、アイスコーヒーにしろココアにしろ、ストローですするのは、異様な感じはしませんが、所謂、お冷、という、水、にストロー使う人はいるのでしょうか。また、麦茶なるものには、使うのでしようか。

 プラスチックストローの提供廃止を発表しだしたのが、こうしたコーヒーチェーンやファミリーレストランが中心だったことから、大量提供の元がこうした企業だったことがわかります。

 反対に、ストローが現れない現場は、どんなものなのでしょう。
 ジャックは、所謂、高級料亭、レストラン、懐石の座などに座ったことがないので分からないのですが、想像では、「お飲み物」にはストローは付いてこない、のではないか、と拝察する次第なのです。ご経験の多いかたが居たらご教示をお願いしたい次第。
 もう一つ、温かい飲み物にも、おそらくストローは付いてこないだろうと思うのです。温かい飲み物、というのは、テーブルに運ばれるまでは、やや熱くて、口元で“フーフー”しながら飲むものだと思うのです。ストローなんか使ったら、喉に一直線、ノドチンコ(あら失礼下品な表現でした)やけど、ものですものね。

どれか、出しい飲み方のものが、ありますか。

 しからば、飲み物の、上手でお上品な飲み方ってどんなものでしょう。

 ここに太宰 治の名著「斜陽」があります。冒頭にこんなシーンが書かれているので、ちょっと紹介してみましょう。

 朝、食堂でスウプを一さじ、すっと吸ってお母さまが、
「あ。」
 と幽かな叫び聲をお擧げになった。
「髪の毛?」
 スウプに何か、イヤなものでも入ってゐるたのかしら、と思った。
「いいえ。」
 お母さまは、何事も無かったやうに、またひらりと一さじ、スウプをお口に流し込み、すましてお顔を横に向け、お勝手の窓の、満開の山櫻に視線を送り、さうしてお顔を横に向けたまま、またひらりと一さじ、スウプを小さなお唇のあひだに滑り込ませた。ヒラリ、という形容は、お母さまの場合、決して誇張ではない。婦人雑誌などに出てゐるお食事のいただき方などとは、てんでまるで違っていらっしゃる。

 昭和Ⅱ二年十二月十五日 發行  新潮社 刊より

斜陽 人間失格 桜桃 走れメロス 外七篇 (文春文庫)
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 このお母さまが、ストローを使わずに、お飲み物をいただくとしたら、どのようにお召し上がりになるのか。
 日本の礼儀作法の本家である、小笠原礼法をいろいろ調べてみましたが、確呼たる答えは見つかりませんでした。強いて想像すれば、胸元まで両手を添えて持ち上げて、唇の先から、ツーと一口、といったところでしょうか。

 しつこく、小笠原礼法で「小笠原礼法 ストローの飲み方」まで検索してみたら、思わぬものに。「カルピスのロゴ」です。ジャックの年代の人なら懐かしいと思われる方もいらっしゃるでしょう。黒人の細身のストローハット被った男が白い飲み物のグラスにストロー差しているもの。所謂、黒人差別気運などで使われなくなったようですが、
そうか、カルピスはストローで飲むものなんだ、と腑に落ちた次第です。
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