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現在刻語事典

其の六 謝罪

『謝罪の王様』という映画がヒットしているらしい。ジャックは見てないけど。
この映画に歩調を合わせたように、「土下座」が話題になった「半沢直樹」のテレビドラマもヒットした。そして、まるで映画の公開を待っていたように、JR北海道や、みずほ銀行の連日のお詫び会見の、例による最敬礼のニュース。何かというと、最敬礼で、何かお詫びも定番になってきて、みずほ銀行の場合では“20秒も頭を下げていた”と、その長さがニュースになってしまうという、新鮮味のなさ。見ていると、“誠に申し訳ありませんでした”次 セーノ、で一斉に頭下げ、とマニュアル化されてしまっているよう。
 私は、どうも、この頭下げてる間に、舌出してる者もいるんじゃないかと、意地悪に考えている。お詫びというのは、相手の顔見て、きちんと、説明責任を話すことじゃないかと、思っているのです。

 ところで、私の人生で謝罪の経験がどれほどあったかと、つまらぬことを思い出させる、最近のニュース。「ジャックの思い出したくない謝罪・三大事件」をしかたない、ご紹介する。仕事の性格上、ミスプリント、誤植は数限りない、と言ってしまえば申し訳ないが、その一例がこれ。

其の壱
 私が当時担当していた月刊誌は、その号で取材させていただいたお店や、広告主の連絡先としての電話番号を巻末に一覧で載せていました。この「原稿」は取材していた担当者にまかせて各々、書かせていました。
 ある号でこの内の一件が、当時、NHKのドラマにも脇役として活躍していたある中年の、鼻の下に髭をたくわえた役者さんの自宅の電話番号と間違えてしまいました。担当の女性部員が泣き出しそうな顔で、“責任者に電話させろ”と言っています、と言ってきました。電話する前に彼女に間違ったいきさつを確かめましたが、取材メモとは番号は違っていません、メモする段階で間違えたようです。当時、副編集長だった私は、その旨断って電話を入れました。
“とにかく、来い”の一点張り。担当者も連れて行こうとしましたが、絶対にイヤダ、のこちらも一点張り、ここで怒鳴ったりすると、泣いて“辞める”の最終兵器が飛び出すので、単身出動。社のあった本郷界隈は、老舗の和菓子店が数件。そこでお詫びの心付を仕入れて青山にあったあるマンションの一室に。

 とにかくまずは、不用意な仕事と申し訳し、菓子を差し出しましたが、この役者さんの「ちょっと気のいい、おじさん」のイメージは一瞬に吹き飛ぶことに。まずは菓子折りを突っ返し“こんなもの、いらん、持って帰れ”、このあと、いかに電話の間違えで仕事に迷惑が掛かっているかの長広舌。自慢じゃないけど、何十万部も出ている雑誌じゃない、店への問い合わせだって、いくつあったやら。今の私だったら“ところで何件くらいの電話がありましたか”と聞いただろうけど、まだ若かったからなあ。こちらの弁明など何も聞かず、まあ、言っても言い訳には過ぎないわけだけど。30分も居ただろうか、さすがに普段は温厚な私も、玄関を出て、マンションの入り口近くにあった灰皿のあたりに、菓子折りを思い切り叩きつけて帰ってきた。その後、ゴミを片付けに来い、なんていう電話があるかと思っていましたがそれはなし。
 この事件の後、このページの最終校正では、必ず担当者が、印刷された番号に直接電話して、確認するようにしたのです。今では、当たり前のことだと思うんだけど、どうしてるんだろう。

其の弐
 私には、この出版社を辞めて、プロダクションに入るまでに「編集生活空白の二年間」がありました。今になって考えても、なぜあんな仕事に就いたのかよく判らない、ジャックの行き当たりばったりそのままでした。
 渋谷の宮下公園を見下ろすビルにある、輸入化粧品の販売会社の販売促進の仕事でした。本造りとは全く違うことをやって見たかったのでしょうね。それまで着た事のない白地のスーツにグッチのトランク持たされて、2年間で全都道府県を二周りも歩き回りました。扱っていた商品は『小ジワをかくすメークアップ化粧品』。なんかマユツバものでしたが、15ミリの小さいビンで10.000円もするもの。でも、努力の甲斐あって、都内の老舗デパートの検査にも合格して店頭にも並びました。言っちゃなんだけど、ジャックの商品説明は、うまかったからね。

 ある日、化粧品売り場の主任さんから、お客様からちょっとクレームがあったので、一緒に説明に行ってくれないかとのこと。もちろん行かざるをえません。まずは店で主任さんに説明受ける。おなじみの方だとかで、手土産もいらないとのこと。三田にあるマンションへ。この商品を使っていただいている方は中年で、どちらかというと、体型華奢な方が多い。この方もそんなタイプ。
 お茶も出していただいて、私からは、安全性はデパートの検査で証明されている旨と、検査合格の書類を提示。ただし、どんな化粧品でも肌に合わない方はいらっしゃること。適応例とは言えないけれど、と断った上で、上野・アメ横のある店では、店主が“ウチは、中身が例え水でも売ってみせる、そのぐらいの説得で売る、ただし、絶対に肌に害を与えない商品であること”として扱ってもらっている、という話もさせてもらった。
 当然、買い上げていただいた商品の代金はお返しする、と申し上げたのですが、“自分も納得して買ったものなので、その必要は無いと”と申されました。
 この謝罪は誠に、気分のいい、と言っては語弊があるかもしれませんが、忘れられない謝罪の一例でした。

其の三
 これも出版社時代のこと。謝罪も何も、一方的に怒鳴られて一巻の終わり例。
 私は入社してすぐに、ある人形作家にしてファッション雑貨のデザイン・製作をする、謂わば男性の、向こう側に属する先生の担当を仰せつかっていました。女性編集者が多い職場ですが、なかなか難しい相手で、こちらも、あちらも、うまくいかない仕事になっていたようです。飛んで火に入る何とか、見事担当になった訳です。

 材木町にあったオカマバーに原稿取りに行った事もあれば、自宅としているマンションの紫色のカーテンに囲まれた部屋で夜中まで待たされて、原稿受け取ることもありましたね。先生、ヨーロッパの人形作りなんか取材したい、航空会社とタイアップで記事かけないか、なんて言いだしたこともあって、6回分の企画書作って、日本航空にお願いにも行きました。無事、実現、先生、秘書(男性)と行きました。
 おかげで不動の担当者です。

 ある日、先生から、フランス語の本から人形の記事を私流に記事にしたい、と注文。友人頼って、あるホテルで仕事をしている女性を紹介されて翻訳を依頼、彼女にはクレジットと謝礼で了解をもらっていました。ここまでは、いいですよね。で、先生に原稿渡す。本になる、記事の末尾に翻訳者の名前入れる、ここまでも、いいと思っていたのですが、本を送って間もなく、先生から“アンタ、なんてことしてくれたの、翻訳者の名前入れるなんて、アタシの顔に泥をぬってくれたわね、もうあなたとは、絶対仕事しません”と電話。うーん、原稿渡す時に訳者のクレジット入れると断らなかった私のミスかな、とも思ったのですがどうでしょうか。
 当時の編集長は男性編集者、彼は“ほっとけ、来月から頼まなくていい”と。で、先生とはそれっきり。もし、女性編集長だったらどうだっただろうか。自ら謝りに行って、なだめて、泣かれて、その後で私に当たって、という具合になっていたかもしれません。

 話はちょっと違うかもしれないけれど、それ以来というか、私はこのテの『男性』が苦手で、テレビでも、ナントカデラックスとか、ナントカマングローブとか、メーキャッパーとか出てくると、チャンネル変えちゃいます。ユフィもそれ知ってて、出てくると“あ、これだめね”と変えてくれます。

 オリンピック招致から『おもてなし』がキーワードになっていますが、それに因んでいくと謝罪は『おわび』です。『おわび』というと、なにか女性的で優しいけれど『わびる』というと、きりっと、けじめをつける感じがするのは私だけでしょうか。
 私もよく使った『お詫びと訂正』も軽いものね、校了前に編集長が“最後5行空けて、お詫びと訂正、忘れんなよ”なんて科白が、雑誌から読めますよ。
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